野外活動で突然、子どもが動かなくなる

 28年前、広島市内の公立中学校の養護学級に勤務していた私は、KさんとNさんと初めて合同(市内中学校の養護学級が集まって行う)野外活動(似島)に参加しました。夏休みを控えた7月で、非常に暑かったことを覚えています。

養護学級ばかりの野外活動なので、行程は非常にゆったり組まれていたのですが、慣れない場所と暑さもあって私も2人も疲れていました。そこで、予定していた登山を止めて地域散策に変更しました。出発前に、Nさんの顔が赤いので体温を測ると微熱がありました。急遽、同行されていた他校の保健室の先生にお願いして休息を取らせてもらい、Kさんと散策に出かけようとしました。しかし、声をかけてもKさんは着替えもせず動こうとしません。事情をKさんに話したけど…。まったく動かない…。

Kさん、相部屋の畳の上で〇〇してしまう。

 Kさんは、身辺自立ができていて、発語はオウム返しでした。日頃はいつもご機嫌で、交流学級の生徒に愛される癒し系女子。しかし、納得がいかないと「貝」のように動かなくなってしまう特徴がありました。慣れた学校生活では、手を変え品を変えKさんの行動を促すようにしていましたが、非日常の宿泊生活でお互い疲れていたこともあり心配りが行き届かずKさんは「貝」になってしまい、挙句の果てに畳部屋で…おもらし…。学校生活では、まったく心配していないトイレなのに、「なぜ?」「さっき行ったよね。」「我慢していた?」いつもはしないじゃん…。そんな状況が非常に恥ずかしくて腹立たしく、着替えに応じないKさんに声を荒げ、泣きながらKさんの失敗の処理をしたことがありました。

全く何も信じていなかった時

結局、「貝」になったKさんに他校の先生が声をかけてくれたことで、Kさんが我に返って着替えを始め、何事もなかったかのように夕飯の会場に向かいました。この時に私は、敗北感でいっぱいでした。 今思えば、お笑い種です。
その後、Nさんの熱は下がり夕飯も食べて夕食後の活動に参加しました。。Kさんも一緒です。そして、翌日元気に帰校しました。  学校に迎えに来たお母さんに、おもらしの事を伝え心配りが足りなかったことを謝罪しました。

 当時の私は、とにかく必死で生徒に充実した学校生活を送って欲しい!の1点で指導に当たっていました。熱意さえあればこどもは成長させられると、大きな勘違いをしていることすら気が付きませんでした。その後も、求められてもいないのにKさんに熱意を押し付けて、何度もKさんを「貝」の状態にしていました。 

楽々と笑顔にしてしまうお母さん先生

Kさんを1年生の時から、交流級の担任として一緒に指導に当たってくださった大先輩のY先生は、Kさんの大好きな先生です。Y先生は、Kさんのペースを大切にしてくださり、うまく同級生とKさんを繋げてくださいました。「勉強がわからなくても、Kちゃんと一緒に過ごすことが嬉しいの。」といつでも迎え入れてくださるので、Kさんは嬉しくて笑顔で交流学級に出かけていきました。

こどもを「受け入れる。」と教わる。

KさんはY先生に3年間お世話になり、私も3年間そばでY先生の教員としての姿を見させていただきました。その時間で教わったのは、こどもを受け入れるということでした。こども一人一人の個性(好きなことや大切にしていること)を、リスペクトして信じるのです。教員だったら当たり前と思うかもしれませんが、それができる方は、本当におられません。そのY先生からの愛を、思春期のこどもが喜んで受け取っている様子はミラクルでした。その後、こどもがどのように変化するかというと、一人ひとりが安心して自らの進路決定をして、受験に向けてクラスの仲間と協同で勉強を始めていったのです。

私のこどもに対する視点は、この時期にY先生の真似をする中で培われたと思っています。卒業するころには、Kさんとの関係もゆっくりゆっくり築き「貝」になってしまうことすら待てるようになっていました。

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投稿者プロフィール

内田亜紀恵
内田亜紀恵
特別支援教諭。元、公立中学校の教員。公立中学校での教員生活17年間の内、12年間を特別支援学級の教員として務めた。上郷個別教室GIFTのスタッフ兼、同教室の保護者会を主催している。趣味は神社仏閣巡りとパン作り。

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